高級金太郎ガム ハッカ味


「おはよーございますー」
「蘭花、今日は任務もないのに早いな」
「そうですか?いつもと変わらないですよ」
「……よい朝です…」
幾度となく繰り返されてきた至極日常的なエンジェルルームの朝。
また一つのドアが開き、水色の髪にフカフカの耳がついた少女が現れた。
スカートの裾をつまんでいつものように挨拶をする。

「皆さん、初めまして」

「アンタねぇ、いつも言ってるけどそのお上品な挨拶の仕方は…ってえぇ!?」
「お前さん、今なんて…!?」
『考えられる可能性は…』
ぴろりん♪と音がして、ノーマッドの頭上に謎の選択肢が現れる。
1 記憶喪失
2 言語回路の故障
3 呪い
4 からかっているだけ

「常套手段ってことで1ね」
「いやいやミントのことだ、4で間違いないだろ」
『皆さん甘いですね。正解はズバリ2ですよ』
「…すべからく3……」
『そうですか?ヴァニラさんがそうおっしゃるのなら…』

予想合戦を笑顔で見守っていた少女が、こほんと咳払いをする。
「残念ですが皆さんハズレですわ。わたくしミントお姉様の双子の妹にあたります、スペアミント・ブラマンシュと申しますの。よろしくお見知り置きを」
「ふ…双子ォ!?確かにそれも常套手段ではあるけど」
「ちょいとお待ち。ミントは確か一人っ子じゃ」
「…私も…そう聞いています…」
「えぇそういうコトになっているんでしたわね。全く、お姉様ったら」
スペアミントはさらりと言ってのけると、仕方ありませんわね、とばかりに首を傾げて見せた。
「ここは部外者立入禁止だぞ、どうやって入ってきたんだ?」
「ブラマンシュ関連会社の高速1人乗りシャトルで窓から入れ替わったんですの。明日の朝にはまたお姉様が戻って参りますわ。でも…」
スペアミントはとたんに悲しげな顔になる。
「今日は、お休みなんでしたわよね?わたくし…お姉様に聞いた…エンジェル隊の暮らしに憧れていましたの…
 窮屈な家からお姉様だけが自由を得て、その上わたくしのことは居ないものとされているなんて…
 お願いです、せめて1日だけでも自由な暮らしを味わってみたいのですっ…」
「そんなのあんまりだわ…」
蘭花は完全に胸を打たれて、フォルテの決定を待っている。
「そうは言ってもなぁ…」
渋い顔のフォルテの前に、スペアミントが素早く回り込んできた。





スペアミントは胸で手を組み感動の眼差しで見上げる。
「お会いできて光栄ですわ!お姉様はよく聞かせて下さいましたわ、強くて優しくて頼りになる素晴らしきリーダーがいらっしゃると」
「よ、よしとくれよ。あたしゃ、まぁ、その、何だ。一日だけだぞ?ちゃんとミントの振りしてるんだぞ?」
『キレイにやられましたね。』
その時、遅起きのミルフィーユが姿を現した。
「おはよぉございます〜。あれ、お客さんですか?初めまして、ミルフィーユ・桜葉です!」
「えぇっ!アンタ何で分かんの!?」
「…へぇ、ミントさんって双子だったんだ。そう言われたら、何となく似てますね!」
「いや…何となくどころか…」
「生き写しです…」

まぁ、これは何ですの!?基地の中には何でもあるんですのね」
基地内のコンビニで、スペアミントが目を輝かせて叫ぶ。ふさふさの耳がぴゅこぴゅこと動く。
その動きさえも、ミントとまったく同じだった。
「ミントさん、いったいどうしたんですか、そんな改まって」
「やっば、ウォルコット中佐だわ!」
「みっみみ見慣れた風景もふと視点を変えてみると素晴らしいことがあるもんだなぁミ・ン・ト!!」
「そうですわ、世界は素敵なものでいっぱいですわ!それではごきげんよう!!」
「?…若いって、いいですなぁ」

「私、今日のことは忘れませんわ…皆さんありがとうございました」
フォルテ達に連れられて基地を回り、エンジェル隊としての一日を満喫したスペアミントは、お土産のミルフィーユ特製ケーキを持って帰途につく事となった。
「明日の朝には、お姉さまが帰って参りますが…お姉さまを責めないで下さいまし。わたくしの、わがままですの…」
「ああ、ミントを責めたりしないさ。楽しんでもらえて、あたしたちも嬉しいよ」
「元気でね」
「…神のご加護を…」
「ところでどうやってミントの部屋から出入りするんだい」
「窓からですわ♪」
「……あ、そ…」

ドアが閉まるのを見ながら、フォルテたちは一息ついた。
「やれやれ、驚いたよ」
しかし。
騒動は、それでは終わらなかったのである…。





一週間後の週末。
「初めまして、ペパーミントと申します。3つ子の妹ですの」
「なにぃっ!?」
「ミルフィーユ・桜葉です!スペアミントさんは元気ですか?」

さらに一週間後の週末。
「お会いできて光栄ですわ、4つ子の妹のクールミントと申します」
「フォルテさ〜ん、アタシ次の休暇いらなくなってきたんですけどぉ」
『揃いも揃って自分より下を亡きものにしてる所がブラマンシュ家の血ですね』

さらにさらに一週間後…
「お初にお目にかかりますわ、わたくしはハーブミントと…」
「いい加減にしろロ●テのガムじゃあるまいし!!お前ミントだろやっぱりあたしらのことからかってんだろゴルァ!!」
「フ、フォルテさんが切れた…」
「…仏の顔のサンドイッチ…」
「やめて下さいフォルテさん!どこから見ても、ミントさんじゃないじゃないですかぁ!!」
「ミルフィー…アタシには分かんないわ」
「こら何とか言えミント!」

「やれやれ…信じて頂けないのでしたら……もしもしお姉様?」
彼女は携帯を取り出し、少し会話を交わして満足げに切った。
「今からこちらにお邪魔しますわ、ミントお姉様とスペアミントお姉様とクールミントお姉様と」

彼女はそこで一旦言葉を切り、意味深な微笑みを浮かべると続けた。
わたくしは隠したり致しませんわ、妹のブラックミントとシトラスミントとベリーミントとハードミントと…」
くぴゅくぴゅくぴゅくぴゅくぴゅくぴゅくぴゅくぴゅ…ミントの部屋のドアの向こうから、かなりの人数が耳をぱたつかせる音が聞こえてきた。
「あら到着したみたいですわ。さすがに早いですわね」
「早すぎよっ!!」
「うふふふふふふ、それではオープンザドア〜♪」
「うわぁちょっ、ちょっと待ておいっ」

プシュー



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